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ヒメイチゴノキ 花の仕組み [花木(冬)]

ヒメイチゴノキ
 ツツジ科イチゴノキ属の常緑低木。
 学名:Arbutus unedo L. ‘Compacta’  英名: Strawberry tree
 高さ: 1〜3m

ヒメイチゴノキについては2009.12.16.すでに記載しました。
それから4年、木はヒロヘリアオイラガやミノムシの被害を受けながらも2m余に育ち、11月から1月まで花を保ってくれます。
イチゴノキ1215-11wb.jpg

花は長さ約 9mmのクリーム色で壷形。
花は同じくツツジ科のアセビやドウダンツツジと似ています。
一房に10〜30花が下垂して咲きます(12月15日)。
近づくとかすかな芳香が漂っていました。
イチゴノキ3wb.jpg

常緑で光沢のある葉は4〜10cmの楕円状披針形で美しい(11月9日)。
鋸歯のある辺縁は上の画像のように寒くなると赤みを帯びます。
イチゴの木08-3葉wb.jpg

花は光線によっては透けて見えます。
中に何があるのか見てみたくなりました。
イチゴノキ蜜wb.jpg

まずは下から見上げます。
意外にも赤色が現れました。
中心に柱頭、周りはそれぞれ様々な白と赤の交錯。
花冠の下端は小さな5枚の花弁のように反転しています。
イチゴノキ花多彩wb.jpg

改めてよくよく見れば、外からも赤っぽい色が透けて見えました。
真珠や白絹を思わせる神秘的な色合いです。
上の方に凹みのように見えるのは水滴?あるいは蜜?。
イチゴノキ花房4wb.jpg

赤っぽく見えた花の真ん中当りを鋏で切ってみました。
中央の黄色の部分は雌しべの花柱。柱頭部は切り落とされました。
赤いのは雄しべの葯でした。
白い花粉が出始めたばかりの若い葯です。
イチゴノキ花奥若wb.jpg

こちらの花は上の方の雄しべはすでに花粉を出し終えて退縮中、下の方の雄しべからはまだ花粉が出ています。
花冠の内側にも白い細い毛が生えています。
イチゴノキ花奥wb.jpg

今度は花冠を縦に切って外しました。
真ん中は萼に続いて雌しべ(子房、花柱、柱頭)。
雄しべは10本、葯は美しい紅色、花糸には細かい毛が密生しています。
花冠基部には甘い蜜が貯まっていました。細毛で蜜が落ちないよう留めているのでしょう。
外から凹みのように見えたのはこの蜜でした。
イチゴノキ雄しべwb2.jpg

葯の背部から2本のひげか角(つの)のようなものが出ています。
これは何でしょう?
調べるとアセビやドウダンツツジには「刺(とげ)状突起」があると記載されていました。
ヒメイチゴノキ も同じ構造かと思われます。
イチゴノキ雄しべwb.jpg

雄しべの花柱は蜜でべとべとしています。
葯は2室に分かれ、葯室から1本づつ刺状突起が伸びています。
イチゴノキ葯割面1wb2.jpg

葯の中の花粉も確認したくなりました。
若い葯を押しつぶしてみると2室に花粉がびっしり詰まっていました。
下方から刺状突起が2本出ています。
イチゴノキ葯中2wb.jpg

さらに拡大してみます。
葯が少し破れて花粉が飛び出しています。
突起は葯室の開口部から出ていることがわかりました。
イチゴノキ花粉1wb2.jpg

刺状突起を拡大します。
ハナバチなどの昆虫が花の蜜を吸おうとするとこの突起に触れます。
その振動で葯から花粉がこぼれ落ちて昆虫の口の周りに付着、これを次に訪れる花の雌しべに運ぶという仕組みです。
昆虫の少ない冬期、花粉を少しずつ消費して長持ちさせ、送粉の機会を増やそうという作戦でしょうか。
イチゴノキ葯突起2wb.jpg

しかし、現実にはこれだけたくさん花が咲いても果実はあまり実りません。
花が咲く頃、昨年の果実が赤く熟すはずですが、今年は一つも残っていません。
この画像は過去のものです。
果実はヤマモモの果実とそっくりで直径約2cmの液果、食べられます。
しかしヤマモモはブナ目ヤマモモ科。
ヤマモモは雌雄異株でヒメイチゴノキとは全く異なる地味な花を咲かせます。
また花が似ているアセビやドウダンツツジの果実は上向きにつく蒴果。
このこともとても不思議に思えました。
イチゴの木実04wb.jpg

毎年ヒメイチゴノキの花を見ていてもただ外から見ていただけでした。
今年初めて花冠を開いてみると、また新たな植物の仕組みが現れたじろぎました。
ヒメイチゴノキやイチゴノキの花についての詳しい文献が見当たらず、アセビやドウダンツツジから類推しました。
誤りがありましたらお教えいただけますようお願いします。

追加(2014.1.26.深夜)
この記事は初め「イチゴノキ」として本日公開しました。
あとで「ヒメイチゴノキ」という園芸種の存在がわかり再確認しましたところ、9年前植えたとき付いていた「ストロベリーツリー いちごの木」という手書きラベルの下に、T種苗会社の「姫いちごの木 コンパクタ」と印刷された小さなラベルが見つかりました。
 
イチゴノキ
 学名:Arbutus unedo
 高さ:5〜10m
 分布:北アフリカ、西アジア、南東・南西ヨーロッパに及ぶ地中海周辺および
    アイルランド、ウクライナ。
(分布についてはエフ・エムさんからGRINをご教授いただき前の記事を訂正しました。)

イチゴノキが高さ5m以上になるのに対し、ヒメイチゴノキは3m以下のようです。
それでも高さ2mを越える樹に姫の名称はピンときませんが、5m以上の樹に対しての命名でしょう。
樹高以外にはイチゴノキとヒメイチゴノキの違いについての記載は見つかりません。
この庭の樹は2mは越えていますが、4年前書いた記事にも「2mくらい」とあり、これ以上あまり大きくならないのではと思います。
このためイチゴノキではなく、ヒメイチゴノキと考え訂正しました。

コメント(15) 

コメント 15

多摩NTの住人

こんにちは。
イチゴノキは知りませんでした。
属名にもなっているんですね。
とても詳しい説明で勉強になりました。
by 多摩NTの住人 (2014-01-26 18:19) 

夕菅

多摩NTの住人 さん コメントありがとうございました。
夕食後、「ヒメイチゴノキ」があることを知り、再確認しましたところこの庭の樹は園芸種ヒメイチゴノキとわかり訂正しました。すみません。
一般には「イチゴノキ」として扱われていることが多いようです。
園芸店のラベルの表示を盲信してはいけませんね。

by 夕菅 (2014-01-27 01:16) 

エフ・エム

この植物については知りませんでした。以前に出された記事も今拝見しました。一見アセビと間違いそうです。花の構造はいつも通りのすばらしい観察ときれいな写真に感嘆しています。
分布について、GRIN (http://www.ars-grin.gov/~sbmljw/cgi-bin/taxon.pl?3849) を検索してみたところ、Nativeは北アフリカ、西アジア、北、東、南東、南西ヨーロッパとありました。分布は意外と広いのですね。
by エフ・エム (2014-01-27 10:52) 

エフ・エム

上記のGRINアドレスをクリックしたら、エラーが出ることに気付きました。http://www.ars-grin.gov/~sbmljw/cgi-bin/taxgenform.pl?language=en
でGRINのホームページが出てきますので、Arbutus unedoを入れれば該当ページが出ると思います。
申し訳ありませんでした。
by エフ・エム (2014-01-27 11:07) 

花咲かばあさん

ユウスゲ庭で初めて出会った植物でした。、
ドウダンツツジに似た花とぐらいに受け止めていましたが、こんな風にアップで見せていただくと可愛いくて、特に下からの表情の愛らしいこと。
ヤマモモに似た実もきれいでおいしそうですが、そのまま食べてもおいしいものではないらしいようですが、ジャムやリキ-ルにすると美味のようですね。
花も実も楽しめるこの植物もやはり虫にも魅力的なんですね。虫退治も大変ですか。ヒメイチゴノキは日本正式和名、別名と思っていました。

寒さの中にも春のきざしも見えてきたこの頃ですね。
by 花咲かばあさん (2014-01-27 11:36) 

とんちゃん

夕菅さんのこういう記事は大好き!!!
「それが見たいんだけど そこのところをもっと大きく見たい どうなっているのかな~」という疑問や見たいところを解き明かしてくださるのです!
花を下から見たときに赤が目立ちますね
この赤い色をしているのは?とつい先を急いでみました。
赤・白 はっきりしていますね
凹んでいるように見えたのは蜜がたっぷり貯えられているところだったのですね
細い毛が生えて落ちないように工夫もされて芸が細かい
棘状の突起の部分は大きく見ることできこんな風になっているのかと見つめました。
イチゴノキでは花を見て味見もしたことがあります。
甘味を十分感じたという記憶があります
木の高さで「ヒメ」がつくのですね
夕菅さんでなければできないこと ありがとうございました
by とんちゃん (2014-01-27 14:48) 

夕菅

エフ・エムさん 専門的なコメントありがとうございました。
GRIN(米農務省の管轄下の植物データベース)をお教えいただきました。これからもこれで調べればいいのですね。
世界地図を開いてGRINに記載された17国に赤印をつけていくと、地中海沿岸の殆んどが赤く染まり、リビアとエジプトだけ残りました。
お蔭様で久しぶりに地理の勉強になりました。
by 夕菅 (2014-01-27 22:24) 

夕菅

花咲かおばさん コメントありがとうございました。
花も実もきれいで常緑、剪定も殆ど要らず理想的な庭木だと思えましたが、おいしそうに繁った葉は昆虫にも好かれました。
ヒロヘリアオイラガの大群と悪戦苦闘、やっと少なくなったと思ったら今度は極小ミノムシです。捕りきれないので枝毎切ったこともありますが、寒中の今でもまだたくさんぶら下がっています。
もっと実をならせるにはどうしたらいいのでしょうね?

by 夕菅 (2014-01-27 22:41) 

夕菅

とんちゃん 熱いコメントありがとうございました。
本当はドウダンツツジを書いた時、中を見るべきでしたが思いつきませんでした。
うちのアセビやドウダンツツジはまだ低木で花の中を覗き込み難いのですが、ヒメイチゴノキの花は目線から上にあるのですぐ覗けます。
このもしゃもしゃなんだろう?と思ったのが始まりでまた深みにはまってしまいました(笑)。
この次ごらんになったら是非見上げて下さい。
そしてもっとシャープな写真を撮って下さいね。
by 夕菅 (2014-01-27 23:02) 

宇治のヒカルゲンジ

初めてコメントお送りします。
京都府立植物園にもイチゴノキが数本ありますが、いずれも高さは
2~3Mでひょっとしてヒメイチゴノキなのかも?高さ以外に区別する
基ができないのでは確認しようがないですが。
とても面白い花の構造、今度確認したいと思います。これからも色々
興味深い記事楽しみに読ませていただきます。
by 宇治のヒカルゲンジ (2014-01-29 10:21) 

夕菅

宇治のヒカルゲンジさん
初めてのコメントありがとうございました。
この記事をイチゴノキとして公開した後、wikipediaでは高さ5-10mとなっていたのが気になり再確認しましたところ、筑波実験植物園ではヒメイチゴノキとして公表されていました。
http://www.tbg.kahaku.go.jp/recommend/illustrated/result.php?p=1&mode=easy&order=staff&name=ヒメイチゴノキ

高さも2mくらいでほぼ横ばいですし、コンパクタと明記したラベルも見つかったので急いで訂正した次第です。
京都府立植物園は園長さんがガイドされる見学会もあっていいですね。前回の霜柱の記事でも参考にさせていただきました。
このような記事は時々しか書けませんがまたお訪ねいただければ幸いです。




by 夕菅 (2014-01-29 12:30) 

703

ヒメイチゴノキの写真を見て、うちのはこんなに咲かなかった、
ちょっと感じが違うと思って、自分のブログで「イチゴの木」を検索したら、
花の色が違いました。実は記憶にあるのと同じです。
食べたけど美味しくはなかったですね。
2011年に枯れましたが、2m以上になっていた気がするので、
イチゴノキかもしれません。

花の構造は神秘ですね。
顕微鏡の世界は面白い!!

by 703 (2014-01-29 22:19) 

夕菅

703さん コメントありがとうございました。
今、お庭にあったというイチゴノキを見てきました。
これはベニバナイチゴノキだと思います。
さらに調べたらイチゴノキ・ヒメイチゴノキ・ベニバナイチゴノキの3種の苗のセット販売も見つけました。
せっかく大きくなったのに、枯れてしまったのですね。
またあのテッポウムシがついたのでしょうか。
実は食べられるとはいうものの、美味しくはなさそうですね。


by 夕菅 (2014-01-29 23:55) 

リンちゃんママ

いつも観察がどんどん細かくなり写真も日常では見れない様子を綺麗に撮ってあり感動します。我が家にはドウダンツツジがありますので今年は花が咲いたら横から下から見てみます。
by リンちゃんママ (2014-02-02 23:16) 

夕菅

リンちゃんママ さん コメントありがとうございました。
今回は覗いた時に見えた赤い部分が気になって、だんだん奥へ覗きに言ってしまいました。
お付き合いさせてすみません。
ドウダンツツジも同じような構造だと思いますが、雄しべや突起も白いので観察し難いかもしれません。アセビの方が雄しべや刺状突起が赤っぽくて見易いようです。見れば見るほど楽しくなりますよ。
by 夕菅 (2014-02-03 22:57) 

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