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ヤツデの花 [花木(冬)]

ヤツデ
 ウコギ科ヤツデ属 常緑低木
 花期:11〜12月

前回のヤツデの葉に続いて今回は花を中心にまとめてみます。
見慣れたヤツデもいざ調べてみるとなかなか奥の深い植物でした。

垣根の北側の隙間に自生してナンテンと競いながら成長したヤツデ。
11月初旬、花盛りの頃です。まだまだ12月いっぱい咲き続けます。
ヤツデ花序wb.jpg

先ずは花芽がふくらんで蕾が見え始めた頃。
ヤツデ蕾初めwb2.jpg

小さな拳をたくましく突き出しながら展開していきます。
ヤツデ花芽2012wb.jpg

真っ先に花が咲くのは主軸のてっぺん。散形花序です。
ヤツデ1107咲き初めwb.jpg

花径5ミリくらいの白色5弁花。
中央の黄褐色の膨隆は蜜を分泌する花盤です。
ヤツデ雄性期初め1wb.jpg

1対の葯をもつ雄しべが5本伸び出し、花盤から蜜を分泌して花粉を運んでくれる昆虫を待ちます。しかし雌しべは見当たりません。
ヤツデ3雄性期wb.jpg

あ、ミツバチです。それもこの辺りでは少数派のニホンミツバチ。
花盤の蜜を舐めています。
ヤツデニホンミツバチwb2.jpg

もちろんセイヨウミツバチも常連です。
ヤツデミツバチ2wb.jpg

キンバエもヤツデの蜜が大好物のよう。
5枚の花弁に囲まれた花盤の中央におへそのような白い突起が見えます。
これが雌しべの柱頭で雄しべが衰える頃現れるのです。
花粉を出し終えた葯は次第に褐色になり、花弁と共に散っていきます。
ここまでを雄性期といいます。
ヤツデキンバエwb.jpg

雄しべが散った後、5裂した雌しべの花柱が伸びて広がります。
ここからが雌性期です。
ヤツデは雄性期が終わってから雌性期が始まる両性花ということになります。
ヤツデ雌しべ蜜1wb.jpg

白く柔らかそうな雌しべの花柱。
再び花盤には蜜がたっぷり分泌され、昆虫が花粉を運んでくるのを待ちます。
ヤツデ雌しべ蜜@2.jpg

普通の両性花だったらこのように花弁が落ちれば既に受精終了し子房が膨らむ頃ですが、ヤツデでは今なお受粉期。
ヤツデは雄性先熟の花の中でも珍しく、雄性期と雌性期をはっきり区切って同花受粉を避けているのでしょう。
ヤツデ雌しべ蜜wb.jpg

ここにもセイヨウミツバチがやってきて、キンバエと並んで熱心に蜜を舐めています。
ヤツデミツバチwb.jpg

ヤツデの花にはもう一つの特殊性がありました。
この画像は雨上がりの日、白く輝く花の美しさに感動して撮ったものです。
よく見ると先に咲いてすでに雌性期に入っている緑色の花序も数個認められます。
ヤツデ雨後wb.jpg

しかし、接写画像がありません。やむなくこの上部を拡大しました。
輝く雄しべや艶やかな花盤達に加えて雨の滴も光っていました。
昆虫達は飛び交いながら雄性期の花の花粉を雌性期の花の雌しべに運んでくれるのでしょう。
ヤツデ雨後upwb.jpg

さらによく見ると側枝にまだ小さい緑色の球状の小花序が数個見つかりました。
そのうち見やすいもの2個をで囲みました。(画面をクリックすると大きく見えます。)
同じ構造は1枚目の画像にも認められます。
ヤツデ雨後wbL.jpg

の蕾は開花して花粉を提供できても、次に咲く蕾がありませんから受粉はできません。そこで雄しべが枯れても雌しべは現れず、そのまま花柄から全て枯れ落ちてしまいます。
そのためこれらの花は雄花といわれ、成書にはヤツデには両性花と雄花があると記載されています。
ヤツデ雄性花2wb.jpg

かくして若い果実の出来上がりです(2012.2.16.)。
雌しべの名残がまだみえます。
ヤツデ20120216wb.jpg

豊作の年(2010.2.23.)。
この実は4〜5月完熟して紫黒色になります。
ヤツデ若い実2wb.jpg

残念ながら完熟の頃の写真は撮ってありません。
これは落下していた実を見つけて撮った画像です(2012.5.17.)。
まだ雌しべは残っていますね。
ヤツデ実2wb2.jpg

ヤツデの花は個性的な花でした。
寒くなる季節を待って花を咲かせ、他花と競わず昆虫を集める少数派。
かたくなに雄性先熟を守る律義者。
さらに無駄なことはしないと最後は雄花で終える合理派。
お蔭様でいろいろ学ばせていただきました。
コメント(14) 

コメント 14

703

つくづくと植物の世界の奥深さに感じ入ります。
詳しく調べて教えていただいて、ありがとうございます!
年末だったか、山にあるお墓に行く途中で、ちょうどヤツデが咲いていました。花のない時季に白が目立ってきれいでした。
取って来て植えようかな?
by 703 (2013-01-20 21:21) 

夕菅

703さん「つくづくと」の一言にこの1週間が決集されているようで嬉しく思いました。
植物の受粉の方法などを調べていると、何故そこまでこだわるのかしらと不思議に思うことが屢々あります。
まだまだ入門したばかり、全然追いつきません。
ヤツデも日陰などに1株あると冬の景色として面白いかと思います。


by 夕菅 (2013-01-20 22:41) 

とんとん

雄性先熟がはっきりとわかる花なのですね。
ヤツデには雄花があって、枯れてしまうことは全く気づきませんでした。
花盤の色も美しいし、実もキュート。
夕菅さんの記事で魅力がしっかり伝わりましたよ♪
我が家のヤツデは手の届かないほど上に咲くので、あまりよく見ていませんが、何枚か折々に撮ったヤツデの花の写真が見付かりました。
今年は頑張って花の変化を追ってみたいです。
by とんとん (2013-01-21 10:44) 

夕菅

とんとん さんのお庭にもヤツデがおありなんですね。
日当りが悪いとどんどん背が高くなってしまいますが、また下からも新しいシュートが出ると思います。
ヤツデは成長が早いのでまた次のチャンスが訪れるでしょう。
私も撮り置いたものを並べたのですが、文献を読ますに撮った写真はポイントが写ってなくて焦りました。
やはり予習してから撮るべきだとつくづく思いました。
by 夕菅 (2013-01-21 13:02) 

とんちゃん

雌性期に入った様子がよく分かりました!
蜜がたっぷり出ていて柱頭の裂けかたもはっきり写っているのでルーペでのぞいているようでした。
雄花の存在は全く知らなくて初めてです。
いくつもの花のつくりの特徴を備えているんですね。
やつでは昔から家にあるものといった植物なのに深く考えもせずに今まで過ぎてきました。
複雑な過程を踏む花だということを聞いてからは目の向け方も変ってくると思います。
カミヤツデをもう一度見てみたら雪の影響なのかすっかり様相が変わってもう枯れたも同然になっていました。
by とんちゃん (2013-01-21 15:17) 

夕菅

とんちゃん はもう全部ご存知かと思っていましたが、雄花は初めてとのこと、少しはお役に立てて幸いです。
もっとシャープな画像だといいのですが、私のカメラと腕ではこれがやっとでした。来年はとんちゃんのきれいな画像を見せて下さい。
カミヤツデはヤツデより寒さに弱いようですね。

by 夕菅 (2013-01-21 21:46) 

ミセスサニー

解説ありがとうございました。
やつでの花(おそらく雌花の終わった頃)、
いつかはドライフラワーとして、
クリスマスに利用したいと狙っています。

ミツバチの種類、どうして見分けがつくのか、
コツがあったらこっそり教えてください(笑)

by ミセスサニー (2013-01-22 00:40) 

エフ・エム

以前ヤツデの花を観察したことがあって、ああそうだったな、と思い出しつつ、読ませていただきました。
キンバエがくることは知りませんでした。キンバエも花粉媒介に利用するとは、なかなかの知恵者です。
by エフ・エム (2013-01-22 10:59) 

夕菅

ミセスサニーさん 
引き続きの長文お付き合いいただいてありがとうございました。
ヤツデはかなりみずみずしい感じがしますがドライフラワーになるのでしょうか?
果実が実る頃は茎が折れたりしてうちでは紫色の美しい実が輝いているところを確認していません。今年はその目で見てみます。

セイヨウミツバチとニホンミツバチの簡単な見分け方は腹部の色です。典型例ではセイヨウミツバチは腹部の上部がオレンジ色、ニホンミツバチは黒色です。但し、正確には後翅の翅脈の違いを確認すべきです。

by 夕菅 (2013-01-22 12:41) 

夕菅

エフ・エム さん コメントありがとうございました。
貴ブログの「ヤツデの花と実 2010/01/27」拝見してきました。
花盤がとてもきれいに写っていますね。
今はもう蜜がいっぱい出ている花盤はありませんので、私は過去の写真を拡大しましたがどれもピンぼけでした。
うちではキンバエはかなり頻繁に来ていたようです。
寒さに強い昆虫を独り占めにできるよう、蜜も2期にわたってたっぷりサービスしてますね。

by 夕菅 (2013-01-22 13:20) 

花咲かばあさん

ヤツデの葉に続き、花もじっくり観察させていただきました。
この植物も興味深い、性質をもっていますね。
ズ-ムで見せていただくと、美しさがひきたちます。
昔から、日当たりのあまりよくない場所に植えられていて
じっくりにらめっこもしない花でした。
真っ白な星を散りばめたような花の集合体、うちの庭にはありませんが
じっくりと向き合ってみたいです。
花八つ手 星またたけば少し散り     こんな句がしょうかいされていました。
冬に咲く花は白くて地味な花が多いように思います。
ヒイラギ、お茶の花、ビワなど、、、でもこうしてズ-ムの目で見ると
決して地味ではないですね。
黒い実は有毒らしいですね。
by 花咲かばあさん (2013-01-24 23:15) 

夕菅

花咲かおばさん じっくり見ていただいてありがとうございました。
ヤツデは日陰でも咲くから日陰の花というイメージが強いようですが、日向ですと花も実も多く葉もたくましいですね。
「花八つ手 星またたけば少し散り」細部までよく見ての句ですね。
そうそう、ヒイラギも撮り難い白い花で失敗ばかりしています。
ヤツデには花盤のもう少し良い写真が欲しかったのですが、蜜の出る頃はまだ花盤の存在も知らず、撮れてなくて残念でした。
ヤツデの葉にはサポニンなどが含まれ多量摂取すると有毒ですが、生薬(八角金盤)としても利用されています。
黒い実は貝原益軒が「毒ありと言う」と書いているようですが、他には実の毒性を記したものがまだ見つかりません。

by 夕菅 (2013-01-25 13:06) 

なかなか

ほとんどの花が咲き終わった初冬に花をつけるヤツデは、蜜を探す昆虫たちを独り占めにしたいようにも思えますね。
花盤に蜜がたっぷり分泌された初冬のヤツデの花はとても好きです。
夕菅さんはいつも時間をかけて丁寧に観察されていていて、読み応えがあります。  

by なかなか (2013-02-03 22:31) 

夕菅

なかなか さん、奥床しいコメントをありがとうございました。
ヤツデの花はむつかしそうでしたから、後回しにして文献も読まず、時々写真だけ撮っていました。
もう書くべき庭の花もなくなり、いざと思って検索、「なかなかの植物ルーム」を見せていただくと既に2007年1月に、「1月冬のヤツデ」・「ヤツデの 雄花」が掲載されているのを発見!
ほんとうに“へぇ~”の連続、とても参考になりました。
でも既に花は雄花の頃、雄性期の花盤の画像など意識して撮ってなかったので、満足できる写真がなく後悔ばかり。
またリンクのお願いをしようかとも思いましたが、今更こんな写真ではと思いとどまりました。それなのに偶々お目にとまってしまったようで、お恥ずかしいことです。
by 夕菅 (2013-02-04 08:33) 

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