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ヒナゲシとナガミヒナゲシ [草花(春)]

ヒナゲシ(雛芥子、雛罌粟)
 学名:Papaver rhoeas
 英名:shirley poppy ( シャーレイポピー)
(スペイン:アマポーラ、フランス:コクリコ)
 漢名:虞美人草(グビジンソウ)

ヨーロッパ原産のケシ科の一年草。
暑さ寒さに強く、こぼれ種で毎年生えて5〜6月の庭を彩ってくれます。
これは2年前、友人からいただいた紅いヒナゲシの子孫です。

ヒナゲシR1wb.jpg

左右2つの花の間に果実がのぞいています。↓
花弁は4枚、中央のめしべを多数のおしべが取り巻き、めしべの柱頭は子房の蓋のように子房に載り、10数本に分かれて放射状に延びています。

ヒナゲシR2輪wb.jpg

翌年は園芸品種の苗が加わり、花は多彩になりました。
和紙を揉んで造ったような縮れた花弁が美しい薔薇色と白っぽい絞り。

ヒナゲシ紅wb.jpg  ヒナゲシ絞1wb.jpg

覆輪の赤とオレンジ色の花。
ヒナゲシ覆輪wb.jpg ヒナゲシR-7wb.jpg  

八重の品種もあります。
蕾は初めこのように俯いていますが、最後に背筋を伸ばして開花します。

ヒナゲシ八重wb.jpg ヒナゲシ蕾wb.jpg

これらのヒナゲシとは一風変わった素朴な花に気付きました。
調べたらこれはナガミヒナゲシと判明しました。

ナガミヒナゲシ(長実雛罌粟、長実雛芥子)
 学名 Papaver dubium L.
 英名 Long-headed poppy、field poppy

花の色はオレンジっぽく(サーモンピンク)、ヒナゲシよりやや小型。
ヒナゲシより早く咲き出し、5月中に咲き終えます。
一日花で、花が散ると細長い実が出来るのが特徴です。
江戸時代に観賞用に渡来したものが野生化したらしく、帰化植物とされています。

ナガミヒナゲシwb.jpg

花弁は同じく4枚。
帯白色の柱頭は6〜9本の紐状に分かれ、放射状に配列しています。

ナガミヒナゲシ07-1wb.jpg

左の2つはナガミヒナゲシの果実。
右2つはヒナゲシ。毛糸の帽子をかぶっているようです。

ヒナゲシ種比較1wb.jpg

同じく左2個はナガミヒナゲシ、右2個がヒナゲシの果実。
共に内側は成熟して柱頭と子房の間に隙間ができて種子がこぼれ出ています。
ヒナゲシ種子5-5wb.jpg

ナガミヒナゲシ果実の拡大像。
成熟した右の果実では隙間から種子が覗いています。

ヒナゲシ種子5-4Lwb.jpg

柱頭と子房の割面。
心皮の間(濃い色の部分)に充満した種子の集団が、柱頭と同じく放射状または螺旋状に並んでいます。

ヒナゲシ種子Lwb.jpg

ナガミヒナゲシ1個からこぼれ出たたくさんの種子。これぞ「けし粒」。
長い花茎が風に揺れる度に種子がばらまかれるのでしょう。

ナガミ種2wb.jpg

ヒナゲシの果実はまだほとんどが未成熟のため詳しい比較は出来ませんが、早く熟した上の写真のヒナゲシの果実では種子はナガミヒナゲシより小さく、数も少ないように思えました。
庭ではヒナゲシにまぎれてついてきたと思われるナガミヒナゲシが翌年たくさん殖えて驚きました。
共にこぼれ種で毎年出てきますが、ナガミヒナゲシの方が繁殖力旺盛でそのままではヒナゲシが負けてしまいますので、ナガミヒナゲシは種子が落ちる前に抜くようにしています。
それでも必ずいたずらっ子のようにあちこちで花を咲かせ、帰化植物とはいえ捨てがたい魅力もあって、絶えないように、殖えすぎないように共存させたい花と思っています。

ナガミヒナゲシ1wb.jpg

追記 2010.6.11.
この記事を公開したあと、2010.5.17.産経新聞などに次のような記事が載ったことを知りました。
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ー外来種ナガミヒナゲシ急増 専門家「生態系乱す恐れ」ー
 農業環境技術研究所の藤井義晴研究員は「駆除が必要」と話す。
 藤井氏によると、1株から100個超の実ができることもあり、一つの実には約1500個の種が入っている。つまり、1個体が15万個以上の種を作ることができ繁殖力は極めて強い。最近の研究で、根などから出る物質は、ほかの植物の生育を阻害する作用が強いことも判明したという。

 藤井氏は「きれいなので庭で観賞する人もいるが、ほかの植物が育ちにくくなる」と指摘。2000年以降に爆発的に増えているといい「防除しにくい雑草となって、生態系を乱すリスクが高い」と話している。
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外来種って何でしょう? まずは用語の検索です。
その結果、最近は「帰化植物」という言葉は用いられず、「外来生物」とか「外来種」と呼ぶことがわかりました。
そして2004年、外来生物法が定められ、駆除すべき生物を特定外来生物として指定するようになりました。
植物ではオオキンケイギクやオオハンゴンソウなど12種があげられています(2010年2月1日)。
これらの植物を栽培すると罰せられることになるようですが、まだこの中にはナガミヒナゲシは入っておりません。

うちの庭のナガミヒナゲシは1株に出来る実は20個以内かと思います。上記のような100個超は見たことがありません。またヒナゲシも絶滅せず、共に4年目の花を咲かせました。
但し繁殖力はナガミヒナゲシが明らかに強いので、花が咲き終わったころ、種子が成熟する前に抜いています。しかしナガミヒナゲシはたいへん抜き易く、茎をもって引っ張れば容易に引き抜けます。
それでも見逃した実から毎年程よく生えてくるのです。

今、芝生の中のカタバミに悩まされています。カタバミは外来種ではありませんが、小さくても根は深くて取りにくく、すぐに結実するためナガミヒナゲシと比べ物にならぬほど苦労しています。

ナガミヒナゲシには素朴な美しさがあって、毎年少しは顔が見たい植物ですから、特定外来生物に入れられないよう願っています。
上記の「駆除が必要」という記述を見てちょっとナガミヒナゲシの弁護をしたくなりました。



コメント(17) 

コメント 17

TOKO

ご無沙汰しております。
昨日見た記事と…あれれ,ちがう…新しい記事だ…と気づき,ポピーの漢名が虞美人だということに驚き,思わずコメントさせていただきました。
実は少し前に宝塚(母は全くダメなようですが)で“虞美人”を上演していたのを観たばかりで,これも単なる偶然ではないはず…と。
司馬遼太郎の“項羽と劉邦”が大好きで(もちろん項羽が好きなのですが),こういう所は父に似たのかもしれません。
虞美人の亡骸を埋めたあとに,今までに見たこともない真っ赤な花が咲いたことからこの花を“虞美人草”と呼ぶ…と。
いつもyuusugeさんのブログ記事と若干離れたコメントですみません。
でも楽しみにお邪魔させていただいています。
最近コメントなかなかできずにおりました。
またお邪魔させていただきます。
by TOKO (2010-06-05 10:50) 

TOKO

追記
たびたび失礼します。
そうそう,スペインの曲に“アマポーラ”という有名な曲がありますが,それもポピーのことだったのですね。
明るい陽差しに原色の花が咲き乱れるスペインならでは。
いろんな国で,いろんなふうに親しまれている花なのですね。
花を愛する心に国境は関係ないのかな…とは言い過ぎかしら…。
by TOKO (2010-06-05 10:55) 

yuusuge

TOKOさん、ようこそ。
私も“虞美人”には疎いものですが、壮絶な物語ですね。
ただこのブログを書く時、検索中に「項羽の時代よりさらに後の三国志の時代にすら、中国にはまだヒナゲシは存在しなかった」という記載を見つけました。
日本にヒナゲシが渡来したのは江戸時代とか。とするとやはり?
美しいお話にこんな疑問を投げ掛けてごめんなさい。

「アマポーラ」私も今まで知りませんでしたが、ことばの響きは南国の風にそよぐヒナゲシの印象にぴったりですね。
♪アマポーラ〜♪ これはもう忘れないでしょう。
by yuusuge (2010-06-05 22:10) 

satton

ヒナゲシも随分といろいろあるのですね。特に注目して撮ったことはなかったのですが興味がわいてきました。
by satton (2010-06-06 12:50) 

yuusuge

satton さん
庭先に咲いていても、いざ記事にするまでは分類まで考えていなかったのですが、どうもヒナゲシと思っていた花の中に、まだオリエンタルポピーとアイスランドポピーも混在していたようです。
この2種についてはいつか育て直してから別の記事にしたいと思っています。


by yuusuge (2010-06-06 23:49) 

なかなか

yuusugeさん 昨日コメントをここに書いたのですが、どうもちゃんと投稿されなかったようですね。
ナガミヒナゲシの果実をよく観察していますね、さすがyuusugeさんです。
果実や種子をくわしく調べている人ってあまりいませんよね。 ゆらゆらゆれて種子をまき散らす方式は「ふりかけ方式」って感じですよね。
この果実のせまいスリットのおかげでとても効率よく種子を散布することができるそうですよ。
by なかなか (2010-06-08 11:00) 

yuusuge

なかなか さん ありがとうございました。
大先生からこんなコメントをいただいてとても幸せです。
スリットから種子が覗いている写真を撮りたくてドタバタした甲斐がありました。
「ふりかけ方式」、ぴったりのネーミングですね。
これを応用して「種蒔き器」なんて作ったら重宝するかもしれません(笑)。

「なかなかの植物ルーム」を見せていただくとあまりの素晴らしさに、下手なブログをやめようかと思うこともしばしばです。
http://www.juno.dti.ne.jp/~skknari/shokubutu-room.htm
 
偶然ですが、こぼれ種で育っていた源平ツリフネに、今朝、初花を見つけ、なかなかさんのことを思い出していたところでした。


by yuusuge (2010-06-08 13:22) 

ebisu-mama

皆さんのコメントを読ませていただくと

なるほど、なるほど・・ほぉ~ の世界へご招待頂いた感じです。

ポピーから、話が中国へ、スペインへと広がり
また、「ふりかけ方式」なるかわいいネーミングの種子のとばし方と。
本当に勉強になりますし、なによりも 楽しい。

種のまき散らし方は、おもしろいですね。
かたばみやホウセンカのように、触るとはじける種も大好き。
たんぽぽの綿毛の風まかせも
松ぼっくり等の飛行船方の種もロマンを感じます。

子どもの頃、なにげなく見て 触れて、遊んで経験したことが
貴重で、素敵なことだったと 今になって思えるこの頃です。

そして、あらためて知る ことの楽しさを感じています。





by ebisu-mama (2010-06-09 07:24) 

yuusuge

ebisu-mamaさん

あちこちで咲いているヒナゲシですが、いざ記事にしようと思って少し調べると知らなかったことがぞろぞろ出てきて、私自身もつい引き込まれてしまいました(笑)。

ebisu-mamaさんの詩情は幼いときの豊富な自然とのふれあいから醸し出されているようですね。
今の子ども達にもそういう体験をさせてあげたいですね。

この記事を書いた後で、ナガミヒナゲシは「駆除が必要」という報道があったことを知り戸惑っています。
by yuusuge (2010-06-09 23:58) 

ebisu-mama

ナガミヒナゲシと言う名前は、今回教えて頂きましたが、
確かに、色々な場所で見かけますよね。
散歩がてら、野の花を摘む機会が減っていますが、
この花は、ちょっと子どものおままごとに頂いてもいいかしら・・?
そんな気持ちにさせてくれるように咲いています。

生態系を考えると、色々問題があるのでしょう。

以前、海外種に悩まされるのは日本だけのことではなく、
日本から持ち込まれた動植物の繁殖が海外で
問題視されているニュースを読みました。

どの生き物も必死に生き延びようとしているところから考えれば
けなげでもあり、力強くもあります。

難しい問題ですね。




by ebisu-mama (2010-06-10 09:02) 

yuusuge

ebisu-mamaさん
外来種とは? 帰化植物とは? など考えていたら何だかわからなくなりました。
また記事の終わりに「追記」を書こうかと思っています。

花の掲示板などを見ると、最近では写真を撮るために一花採ることもとがめる方があるようです。
昔は野の花を探して蜜を吸ったり、花を絡めて力比べしたり、ままごと遊びをしたり、おおらかでしたね。


by yuusuge (2010-06-11 00:21) 

ebisu-mama

何度もすみません。

まず、海外種と言う言葉はありませんね。
外来種が一般的でしょう。訂正いたします。すみません。

あまり深く考えず、思い出したことを記しましたが、
植物に関しては、私達が当たり前に野の花と思っているものでも
外来種であることが多いですよね。

私の中では、自分勝手に
落ちついていた生態系を急激に脅かすような外来種が
今、外来種問題として取り上げられていると考えていましたが
そうではないのかも・・・
そもそも、生態系とは安定するものなのか・・・
人間に国境はあるけれど、他の生き物には・・・・などと考えていると
何が問題なのか?さえ、わからなくなります。

きちんと勉強しないと、書けませんね。

頭を悩ませるようなことを思いつきで書き、すみません。
でも、yuusugeさんの追記を楽しみにしています。

by ebisu-mama (2010-06-11 11:32) 

yuusuge

ebisu-mama さん

本当に深く考えると地球規模の大問題になってしまいますね。

とりあえず私の庭の中のこととして、追記を書きました。


by yuusuge (2010-06-11 18:34) 

通りすがり

既にご存知かもしれませんが、ご参考まで。

ナガミヒナゲシは本当に駆除したほうがいいの?
https://gunirabo.com/con/nagami-hinageshi/
by 通りすがり (2018-04-23 13:31) 

夕菅

通りすがりさんコメントありがとうございました。
「外来種」はたいへんむつかしい問題ですね。
8年前何を書いたのかしらと自分の記事を恐る恐る読み返しました。
私が引用したのは2010.5.17.産経新聞に載った藤井義晴先生のお話。
今回も同じ藤井先生のご回答ですね。

私の庭では今、零れ種で真っ赤なポピーがたくさん咲いていますが、ナガミヒナゲシも絶えてはいません。
ナガミヒナゲシが少ないのは種子がこぼれる前に抜くようにしているからです。
最近の悩みは外来種ではなく、スギナの恐るべき勢いです。

by 夕菅 (2018-04-23 23:46) 

通りすがり

私の実家の庭もスギナだらけです。あとドクダミも。

昨年はひたすら抜いていましたが、地下茎が深く潜るらしいので、今年は除草剤を使ってみます。

駆除とは関係ありませんが、興味がおありかもしれません。

自然科学観察コンクール スギナの研究 つくしの生える条件
https://www.shizecon.net/award/detail.html?id=390


by 通りすがり (2018-04-24 02:54) 

夕菅

通りすがりさん コメントありがとうございました。
「スギナの研究 つくしの生える条件」面白いテーマですね。
自宅の南側に田んぼがあり、その畔から胞子が飛んで来たらしくここ数年うらの駐車場はスギナの原になりつつあります。
でもつくしは少ないので、私は肥沃な土地では胞子を作る必要がないからかと思っていました。
by 夕菅 (2018-04-24 14:57) 

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