トレニアの不思議(2) [草花(夏)]
トレニアの不思議(2)
もうひとつのトレニアの不思議は生物の神秘の世界の入り口にありました。
左はトレニアの花粉、右は花びらが落ちたあとの雌しべです。
今夏ユウスゲの花に人工授粉をしながら、この花粉がどのようにして卵細胞
まで到達するのか、見たいなーと思いました。
花粉管はかなり速く伸びるようでした。なぜならば受精が完了した証拠にすぐ
子房がふくらんでくるからです。ユウスゲの花殻は1日で落ちるので子房の膨
らみは直接目で見えます。
けれども花粉管とか受精とかは遠い神秘の世界だと思っておりました。
今度トレニアを取り上げようと検索しましたところ、何とこのトレニアが花
粉管の研究に貢献し、すでに神秘の扉は開けられていたことがわかりました。
1869年、フランスのヴァンティーゲムは「花粉管が培地上で胚珠に向かう」
ことを報告しました。このあと世界中の学者が「胚珠にあって花粉管を誘う
何か」を求めて探究してきました。
2001年名古屋大学の東山 哲也教授はトレニアを用いて卵細胞の隣にある二
つの助細胞が誘引物質を分泌することを発見。
2009年 東山教授はついにその花粉管を誘引する2種類のたんぱく質の同
定に成功し、これをルアー(LURE1・LURE2)と命名されました。
ルアーは釣のとき使う疑似餌。魚がルアーを追うように、花粉管がこのたん
ぱく質に誘引されてのびるからだそうです。
140年の謎が解かれたこの成果はイギリスの科学雑誌「Nature」3月19日号
に掲載され、その表紙をも飾ったのです。
これについてはこれらのHPにも詳しく説明されています。
http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/2009/2009-06/page05.html
http://www.nagoya-u.ac.jp/extra/topics/pdf/no193.pdf
東山教授の成功は実験にトレニアを選ばれたことに始まります。
「卵の部分が胚珠の外に飛び出している」これがトレニアのもう1つの不
思議でした。
普通の植物の卵装置(胚のう)は胚珠(受精して種子になる部分)の中に
埋まっています。しかしトレニアでは外に突出していて受精の瞬間を観察
できるということです。
さて、このトレニアの不思議な構造を私もうちのトレニアで見ることがで
きないでしょうか?
まず筒状の花弁をそっと抜き取ります。下部には蜜がたまっていました。
雌しべの子房部分を縦に2つに切り開きました。
拡大すると白いぶつぶつがたくさん見えます。これが後に種子になる
胚珠でしょう。
左:胚珠の部分を塊のまま顕微鏡で見てみましたが、よく見えません。
右:試しに仕事用の苛性カリを滴下して軽く暖めると見事に透けました。
たくさんの胚珠が並んでいます。
拡大すると遊離した胚珠に袋のようなものがついています。これが胚のうで
しょうか?
同じような袋状の突出があちこちに見られます。やはりこれが胚のうでしょ
うね。中に卵細胞とルアーを分泌する2個の助細胞が存在する卵装置です。
花粉管はルアーに引き寄せられて卵細胞目指して伸びてくるのですね。
模式図では実感がなかったトレニアのユニークな胚のうが染色もせず簡単に
見られました。これは私にとっては感激でした。
この顕微鏡には撮影装置はついていません。付設の小型モニターに映してそ
の画面をデジカメで撮ることにしました。
これまた難行、テレビ画面を撮ると横線や縞模様が写ってしまいます。何と
か撮れたのがこれらの画像です。
予め苛性カリ処理をしましたから細胞はかなり変性しているかもしれません。
ですからこれらは私の遊びの記録としてごらんください。
こんなにたくさんの胚珠がそれぞれ種子になるためには、あの細い花柱の中
をおびただしい花粉管がのびてくるはずです。それがもつれないでよくお相
手をみつけるものだとまたまた神秘を感じます。
今頃は東山教授らのチームを初め世界中の生物学者の皆さんが、さらに次な
る疑問の解明のため日夜探究中でしょう。
追記1 2009.10.25.
今日は苛性カリをかけずに、水を垂らしてからカバーグラスの上から押した
だけで観察してみました。
うまく押すと胚のうが苛性カリをかけたときよりふっくらとよく見えました。
胚のうだけを拡大すると卵細胞まで見えそうな感じのものもありました。
追記2 2010.10.29.
1年後の秋、もう一度トレニアに取り組みました。
そして遂に、トレニアの花粉管が伸びていって卵細胞に接合する様子を撮影することができました。
お導きいただきました東山先生に感謝しています。
→トレニアの花粉管
http://yuusugenoniwa.blog.so-net.ne.jp/2010-10-17-2
もうひとつのトレニアの不思議は生物の神秘の世界の入り口にありました。
左はトレニアの花粉、右は花びらが落ちたあとの雌しべです。
今夏ユウスゲの花に人工授粉をしながら、この花粉がどのようにして卵細胞
まで到達するのか、見たいなーと思いました。
花粉管はかなり速く伸びるようでした。なぜならば受精が完了した証拠にすぐ
子房がふくらんでくるからです。ユウスゲの花殻は1日で落ちるので子房の膨
らみは直接目で見えます。
けれども花粉管とか受精とかは遠い神秘の世界だと思っておりました。
今度トレニアを取り上げようと検索しましたところ、何とこのトレニアが花
粉管の研究に貢献し、すでに神秘の扉は開けられていたことがわかりました。
1869年、フランスのヴァンティーゲムは「花粉管が培地上で胚珠に向かう」
ことを報告しました。このあと世界中の学者が「胚珠にあって花粉管を誘う
何か」を求めて探究してきました。
2001年名古屋大学の東山 哲也教授はトレニアを用いて卵細胞の隣にある二
つの助細胞が誘引物質を分泌することを発見。
2009年 東山教授はついにその花粉管を誘引する2種類のたんぱく質の同
定に成功し、これをルアー(LURE1・LURE2)と命名されました。
ルアーは釣のとき使う疑似餌。魚がルアーを追うように、花粉管がこのたん
ぱく質に誘引されてのびるからだそうです。
140年の謎が解かれたこの成果はイギリスの科学雑誌「Nature」3月19日号
に掲載され、その表紙をも飾ったのです。
これについてはこれらのHPにも詳しく説明されています。
http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/2009/2009-06/page05.html
http://www.nagoya-u.ac.jp/extra/topics/pdf/no193.pdf
東山教授の成功は実験にトレニアを選ばれたことに始まります。
「卵の部分が胚珠の外に飛び出している」これがトレニアのもう1つの不
思議でした。
普通の植物の卵装置(胚のう)は胚珠(受精して種子になる部分)の中に
埋まっています。しかしトレニアでは外に突出していて受精の瞬間を観察
できるということです。
さて、このトレニアの不思議な構造を私もうちのトレニアで見ることがで
きないでしょうか?
まず筒状の花弁をそっと抜き取ります。下部には蜜がたまっていました。
雌しべの子房部分を縦に2つに切り開きました。
拡大すると白いぶつぶつがたくさん見えます。これが後に種子になる
胚珠でしょう。
左:胚珠の部分を塊のまま顕微鏡で見てみましたが、よく見えません。
右:試しに仕事用の苛性カリを滴下して軽く暖めると見事に透けました。
たくさんの胚珠が並んでいます。
拡大すると遊離した胚珠に袋のようなものがついています。これが胚のうで
しょうか?
同じような袋状の突出があちこちに見られます。やはりこれが胚のうでしょ
うね。中に卵細胞とルアーを分泌する2個の助細胞が存在する卵装置です。
花粉管はルアーに引き寄せられて卵細胞目指して伸びてくるのですね。
模式図では実感がなかったトレニアのユニークな胚のうが染色もせず簡単に
見られました。これは私にとっては感激でした。
この顕微鏡には撮影装置はついていません。付設の小型モニターに映してそ
の画面をデジカメで撮ることにしました。
これまた難行、テレビ画面を撮ると横線や縞模様が写ってしまいます。何と
か撮れたのがこれらの画像です。
予め苛性カリ処理をしましたから細胞はかなり変性しているかもしれません。
ですからこれらは私の遊びの記録としてごらんください。
こんなにたくさんの胚珠がそれぞれ種子になるためには、あの細い花柱の中
をおびただしい花粉管がのびてくるはずです。それがもつれないでよくお相
手をみつけるものだとまたまた神秘を感じます。
今頃は東山教授らのチームを初め世界中の生物学者の皆さんが、さらに次な
る疑問の解明のため日夜探究中でしょう。
追記1 2009.10.25.
今日は苛性カリをかけずに、水を垂らしてからカバーグラスの上から押した
だけで観察してみました。
うまく押すと胚のうが苛性カリをかけたときよりふっくらとよく見えました。
胚のうだけを拡大すると卵細胞まで見えそうな感じのものもありました。
追記2 2010.10.29.
1年後の秋、もう一度トレニアに取り組みました。
そして遂に、トレニアの花粉管が伸びていって卵細胞に接合する様子を撮影することができました。
お導きいただきました東山先生に感謝しています。
→トレニアの花粉管
http://yuusugenoniwa.blog.so-net.ne.jp/2010-10-17-2
2009-10-20 16:36
コメント(6)
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夕菅さん こんばんは
すばらしい記事に仕上がりましたね。 顕微鏡写真を写すのに苦労されたのがよく分かります。 でも綺麗に写せていますよ。 苛性カリで葉緑素が抜けるのでしょうか?、見やすくなっていますね。
私も夕菅さんに刺激されて、トレニアを観察しようと花屋さんに行ってみましたが、もう時期が終わっていて店頭にはありませんでした。
by なかなか (2009-10-23 18:36)
なかなかさん ありがとうございました。
今までの記事の中で一番緊張して書きました(笑)。
でもなかなかさんからうれしいコメントをいただいてほっとしたとこ
ろです。
庭のトレニアは秋になって一部は枯れ、一部は紅葉しましたが、遅く
なって生えたのはまだ元気に咲いています。
お送り出来るといいのですが、九州まででは無理でしょうね。
by yuusuge (2009-10-23 21:50)
yuusugeさん トレニアの花をようやく店の路地で見つけました。 お店の人に分けて下さるよう頼んでみようと思います。
さて、「ツリフネソウ 花のつくり」のページアップしました。 yuusugeさんにお借りした源平ツリフネの画像を載せましたので、下のURLからご覧ください。
http://www.juno.dti.ne.jp/~skknari/turi-hune-sou.htm
by なかなか (2009-10-24 13:39)
なかなかさん
トレニアの花が見つかって良かったですね。
「ツリフネソウ 花のつくり」 さすが! 感嘆しました。
源平ツリフネソウの花のつくりが全くわからなかったのですが、やはり同じようになっているのでしょうね。また確認してみます。
写真の迫力がすばらしくて、私の写真のお粗末さが恥ずかしくなりました。
by yuusuge (2009-10-24 18:53)
こんな風にトレニアのことを見たのは初めて。
ツリフネソウやカリガネソウ、クロデンドラム・・・それらの花や
カクトラノオ等の花姿と類似している筒状の花、興味深いです。
トレニアの花粉管が伸びていって卵細胞に接合する様子・・・・
ますます夕菅さんにお会いして
いろんな植物のお話お聞きしたくなりました。
お庭も魅力的ですが
植物のお話が聞きたいです。
私は、はるか昔、小学生低学年のころに
町の主宰の植物観察会に参加して
その時講師をされていた先生が
私の質問になんでもこたえてくださるので
感動して、それから植物に興味を持ったのです。
by デスタントドラムス (2016-07-17 06:45)
デスタントドラムスさん コメントありがとうございました。
古い記事をお読みいただいて恐縮です。
デスタントドラムスさんさんは小学生低学年のころから植物観察会に参加していらしたのですね。
その延長線上に今がある、すばらしいと思います!
by 夕菅 (2016-07-17 15:58)