ガガイモ [草花(秋)]
ガガイモ
蘿藦( 鏡芋、芄蘭 )
キョウチクトウ科(←ガガイモ科)ガガイモ属のつる性多年草。
学名:Metaplexis japonica
3年前、ガガイモの果実についてこのブログに載せました。
今年は駐車場とお隣の田んぼとの境目にガガイモが広がりました。
ピンクのガガイモと青いツユクサのコラボに誘われて宿題の「ガガイモの花」に取り組んでみました。
指南役は「ガガイモの果実」の追記に掲げた次の2つのすばらしい論文です。
1)ガガイモの両性花と雄花 (なかなかの植物ルーム )
http://www.juno.dti.ne.jp/~skknari/gagaimo.htm
2)日本の Milkweed ガガイモ(ガガイモ科)における花の雄花両性花同株性表現と
昆虫による花粉塊授受、とくに花の形態との関係
http://homepage3.nifty.com/o-kita/ga/gaga_betu1.html

ひとつのガガイモの花は1cmくらいで淡紫紅色。
葉腋から出た花茎に数個づつ咲きます(総状花序)。
ここではピンク色の濃淡ですが、白色の花もあるそうです。

白い蕾は5深裂した紫褐色の萼に囲まれています。
花冠は5裂して先端はくるりと巻き込み、内側には柔らかい白毛が密生。

花盛り。とても良い香り!
ガガイモの花がこんなに芳しいとは今年初めて知りました。

でもこの花には雄しべが見えません。花の中央に立ち上がるのは雌しべの柱頭でしょうか?
この疑問は上記2)の「ガガイモの論文」で解明されていました。
一見柱頭のように見えるこの突起には粘着性がなく花粉を受けとれない、ということは柱頭の機能を持たないということです。
では真の柱頭はどこにあるのでしょうか。

花を上から見ると雌しべの突起の周りにスペード型の白い膜質の覆いが5枚並んでいます。
実はこれは雄しべの葯の先端が変化したものなのだそうです。
そしてその隙間にはゴマ粒のような黒っぽいものが見えますね。これは何でしょう?
この花冠の前半分を取り除いてみます。

中央の白いかたまりは雌しべと雄しべが合着した蕊柱といわれる組織です。
一般にガガイモ科の花は突出する柱頭がなく、柱頭は花柱の側面にあるそうです。
ガガイモはどうなのでしょう。

蕊柱の中を見るために縦に半分に割りました。これは間もなく開花する大きな蕾です。
右上にはクリップ、左上には花粉塊1個が見えています。
雌しべの子房は2個あり、2本の花柱が上部で合着し、周りを囲む雄しべの葯の外壁と癒合して柱頭室を形成しています。
昆虫の口吻についた花粉塊は次に訪れた花の底部の隙間から柱頭室に入り受精するのです。
ということは、ガガイモも他のガガイモ科の花と同じく、花柱の側面が柱頭ということになります。

上部に並ぶ白いスペード型の部分が葯の上端。
ガガイモでは花粉ではなく花粉塊が5組形成されます。
ここに3個見えるゴマ粒のようなものは花粉塊のクリップとよばれる部分でした。
クリップの下は溝のような隙間になっていて蜜がたまっています。

針の先でクリップをつつくと念願の花粉塊が取り出せました!
クリップの左右に花粉がつまった黄色の袋が輝いています。
1個の花粉塊には約800個の花粉粒が詰まっているそうです。
1対の大きさは約1mm。画像で確認しないとゴミと区別できません。

花の奥の凹みには濃厚な蜜が充満しています。
これがまたとっても甘い!
花粉はなくても香りと蜜で昆虫を集める作戦でしょう。

2の「ガガイモの論文」によればガガイモの花には両性花と雄花があるそうです。
両性花では隙間が広く花粉塊が花粉室に収納されますが、雄花では隙間が狭くて花粉塊が入らないのだそうです。
「ガガイモの両性花と雄花」では両性花の花粉塊が花粉室に取り込まれ、花粉管を出すところまで実験して確認、さらに隙間の大きさと蕊柱の巾や花冠の大きさとの相関も調べられました。
私も両性花と雄花を確認しようと思ったのですが、老眼では花冠と萼を除くのもたいへん、蜜でベトベトで隙間が撮れない、アリが邪魔するなどで根気が続かず断念しました。
この4つの蕊柱では中2つは両性花(巾4mm)、外2つは雄花(巾3mm)かと思います。

ガガイモの葉は細長い心形。
勢い良く樹木にも這い上がります。
ヘクソカズラやウマノスズクサにも似ていますが臭いはありません。
茎や葉を切ると白いミルクのような液が出ます。

この花のもう一つの特徴はアリの大好物だということです。

大きめのアリはアミメアリのようですが、殆どはもっともっと小さいアリです。

蜜を求めて隙間に入り込むと蜜の粘着力が強くて出られなくなることしばしばです。
花粉塊を採るとき、ゴミだと思って除去したのは花粉塊に絡まったアリでした。
アリはこの仕組みでは盗蜜のみならず、送粉できる大きな昆虫の妨げになっているようです。
賢いガガイモもここまでは想定できなかったのでしょう。

隅の方に白っぽい花を見つけました。
カメラを近づけるとおやまあ、もう、若い実が出来ていました!

ガガイモの受粉の仕組みは本当に複雑でよくぞここまでと驚くばかりです。
今年は花粉塊を確認できたことが嬉しくて記事にしましたが、まだ入り口を覗いたにすぎません。
詳しくは上記文献をお読み下さいますようお勧めします。
またこの入門記に誤りがありましたらどうぞ教えて下さい。
蘿藦( 鏡芋、芄蘭 )
キョウチクトウ科(←ガガイモ科)ガガイモ属のつる性多年草。
学名:Metaplexis japonica
3年前、ガガイモの果実についてこのブログに載せました。
今年は駐車場とお隣の田んぼとの境目にガガイモが広がりました。
ピンクのガガイモと青いツユクサのコラボに誘われて宿題の「ガガイモの花」に取り組んでみました。
指南役は「ガガイモの果実」の追記に掲げた次の2つのすばらしい論文です。
1)ガガイモの両性花と雄花 (なかなかの植物ルーム )
http://www.juno.dti.ne.jp/~skknari/gagaimo.htm
2)日本の Milkweed ガガイモ(ガガイモ科)における花の雄花両性花同株性表現と
昆虫による花粉塊授受、とくに花の形態との関係
http://homepage3.nifty.com/o-kita/ga/gaga_betu1.html

ひとつのガガイモの花は1cmくらいで淡紫紅色。
葉腋から出た花茎に数個づつ咲きます(総状花序)。
ここではピンク色の濃淡ですが、白色の花もあるそうです。

白い蕾は5深裂した紫褐色の萼に囲まれています。
花冠は5裂して先端はくるりと巻き込み、内側には柔らかい白毛が密生。

花盛り。とても良い香り!
ガガイモの花がこんなに芳しいとは今年初めて知りました。

でもこの花には雄しべが見えません。花の中央に立ち上がるのは雌しべの柱頭でしょうか?
この疑問は上記2)の「ガガイモの論文」で解明されていました。
一見柱頭のように見えるこの突起には粘着性がなく花粉を受けとれない、ということは柱頭の機能を持たないということです。
では真の柱頭はどこにあるのでしょうか。

花を上から見ると雌しべの突起の周りにスペード型の白い膜質の覆いが5枚並んでいます。
実はこれは雄しべの葯の先端が変化したものなのだそうです。
そしてその隙間にはゴマ粒のような黒っぽいものが見えますね。これは何でしょう?
この花冠の前半分を取り除いてみます。

中央の白いかたまりは雌しべと雄しべが合着した蕊柱といわれる組織です。
一般にガガイモ科の花は突出する柱頭がなく、柱頭は花柱の側面にあるそうです。
ガガイモはどうなのでしょう。

蕊柱の中を見るために縦に半分に割りました。これは間もなく開花する大きな蕾です。
右上にはクリップ、左上には花粉塊1個が見えています。
雌しべの子房は2個あり、2本の花柱が上部で合着し、周りを囲む雄しべの葯の外壁と癒合して柱頭室を形成しています。
昆虫の口吻についた花粉塊は次に訪れた花の底部の隙間から柱頭室に入り受精するのです。
ということは、ガガイモも他のガガイモ科の花と同じく、花柱の側面が柱頭ということになります。

上部に並ぶ白いスペード型の部分が葯の上端。
ガガイモでは花粉ではなく花粉塊が5組形成されます。
ここに3個見えるゴマ粒のようなものは花粉塊のクリップとよばれる部分でした。
クリップの下は溝のような隙間になっていて蜜がたまっています。

針の先でクリップをつつくと念願の花粉塊が取り出せました!
クリップの左右に花粉がつまった黄色の袋が輝いています。
1個の花粉塊には約800個の花粉粒が詰まっているそうです。
1対の大きさは約1mm。画像で確認しないとゴミと区別できません。

花の奥の凹みには濃厚な蜜が充満しています。
これがまたとっても甘い!
花粉はなくても香りと蜜で昆虫を集める作戦でしょう。

2の「ガガイモの論文」によればガガイモの花には両性花と雄花があるそうです。
両性花では隙間が広く花粉塊が花粉室に収納されますが、雄花では隙間が狭くて花粉塊が入らないのだそうです。
「ガガイモの両性花と雄花」では両性花の花粉塊が花粉室に取り込まれ、花粉管を出すところまで実験して確認、さらに隙間の大きさと蕊柱の巾や花冠の大きさとの相関も調べられました。
私も両性花と雄花を確認しようと思ったのですが、老眼では花冠と萼を除くのもたいへん、蜜でベトベトで隙間が撮れない、アリが邪魔するなどで根気が続かず断念しました。
この4つの蕊柱では中2つは両性花(巾4mm)、外2つは雄花(巾3mm)かと思います。

ガガイモの葉は細長い心形。
勢い良く樹木にも這い上がります。
ヘクソカズラやウマノスズクサにも似ていますが臭いはありません。
茎や葉を切ると白いミルクのような液が出ます。

この花のもう一つの特徴はアリの大好物だということです。

大きめのアリはアミメアリのようですが、殆どはもっともっと小さいアリです。

蜜を求めて隙間に入り込むと蜜の粘着力が強くて出られなくなることしばしばです。
花粉塊を採るとき、ゴミだと思って除去したのは花粉塊に絡まったアリでした。
アリはこの仕組みでは盗蜜のみならず、送粉できる大きな昆虫の妨げになっているようです。
賢いガガイモもここまでは想定できなかったのでしょう。

隅の方に白っぽい花を見つけました。
カメラを近づけるとおやまあ、もう、若い実が出来ていました!

ガガイモの受粉の仕組みは本当に複雑でよくぞここまでと驚くばかりです。
今年は花粉塊を確認できたことが嬉しくて記事にしましたが、まだ入り口を覗いたにすぎません。
詳しくは上記文献をお読み下さいますようお勧めします。
またこの入門記に誤りがありましたらどうぞ教えて下さい。
2013-09-16 23:42
コメント(10)
夕菅さん、ガガイモのことを詳しく調べられたのですね!
すごいです
なかなかさんから私も聞いていてガガイモの花を見るたび一応思い出しては見るのですが先ず小さい花 大きい花
というのが区別できずにいます。
見るたびに大きいのか小さいのか・・・そこまででいつも終わりでした。
花粉塊を取り出すことができるなんてさすがだと思いました。
花のにおい 私もなんとなくいいにおいがするとは思っていました。
柱頭のように見えるところもいい加減になっていたのでこちらで解説していただいたお陰で見直すことができました。
とろっとした蜜は見るからに甘そうですね。
もしゃもしゃした花のガガイモって複雑なつくりをしていたわけですね。
by とんちゃん (2013-09-17 15:01)
とんちゃん コメントありがとうございました。
先日「花紀行」で白毛がきれいにカールしたガガイモの花を見せていただきましたね。
3年前からの宿題でしたが、昨年は自生のセンダンに高く登ってから花が咲き撮影不能。今年はあまりにも大きくなるセンダンを切ったら、平地で咲いてくれました。
ここまで誘いがかかれば難題も避けて通れず取り組みましたが、私も小さい花・大きい花は落伍しました(笑)。
それよりは花粉塊の取り出しの方が容易でしたよ。次は是非お試し下さい。
by 夕菅 (2013-09-17 18:11)
こんにちは。
ガガイモの詳しいご説明を有り難うございました。
いつもながらとてもよく理解できます。
当方では、ガガイモは草刈りとの戦いで、なかなか果実や綿毛の写真が撮れません。今年は、何とか草刈りを免れそうな場所の花を見つけたんですが、果たしてこれからどうなるかです。
by 多摩NTの住人 (2013-09-18 08:17)
多摩NTの住人 さん コメントありがとうございました。
ガガイモの花は構造が複雑で文字で読んでも理解しがたいところがありました。
実際の花で少しずつ追って行く方がまだわかり易いかと思います。
まだ花粉塊のクリップの下にあるV字状の裂け目にあるトゲの役割など説明不足ですが、これは私には無理、なかなかさんにお任せです。
ガガイモは草刈りされてしまうんですね。私もこの草は取らぬよう、シルバーさんに頼んでいます。
by 夕菅 (2013-09-18 12:52)
今年はたくさん咲きましたね。こうして見せていただくとガガイモの花は美しいですね。花弁は毛が満ちていてエ-デルワイスに似てる、と思いました。
昔、川の堤を散歩していてどこからかいい香りがする、なんだろうとあたりを見るとピンク色のつる植物、初めて見る花でした。調べるとガガイモです。
ケサランパサランと騒がれた時代です。正体はこの種子の綿毛だったようですね。昔は綿の代わりにこれを用いたとか、裁縫で使う針山の中に入れたりしたそうですね。
「ガガイモの たねのふしぎさ うつくしさ
宇宙からきた カプセルかしらん」
おかげさまで、また昔のノ-トなど引っ張り出してなつかしんだりしています。
by 花咲かばあさん (2013-09-18 15:28)
花咲かばあさん コメントありがとうございました。
果実を見てから3年目、やっとガガイモの花を撮ることができました。
たしかにエ-デルワイスように毛がいっぱい!
まだ暑いのにどうしてこんな防寒着のような出立ちなのでしょうね。
初めの出会いは香りだったのですね。
私は蔓を1本切って1輪差しに生けました。近くヘ行くたびに良い匂い!
初めて芳香に気付きました。
綿毛も本当に美しかった! 今年も見られるかな〜。
ケサランパサラン、もう一度見てみたいな〜。
by 夕菅 (2013-09-18 20:58)
ガガイモを初めて見る気がしますが、日本中に自生しているようなので、きっと見てはいてもそれと認識していないだけかもしれません。
アップにすると、くるんとカールした花びらが可愛いですね。
この度もまた詳しい解説で花の構造の面白さ、不思議さを教えていただきました。
果実の記事も読んで、楽しみました。ありがとうございました。
by 703 (2013-09-18 22:17)
703さん コメントありがとうございました。
ガガイモはよく管理された地域ではが稀少植物になっているのかもしれませんね。
うちではたまたま駐車場の隅に自生したのをこれ幸いとそっと見守っています。
出来るだけわかり易く書こうとしたのですが、仕組みが複雑ですから読み辛かったのでは恐縮です。
お庭のアスクレピアスやフウセントウワタでもガガイモの綿毛と同じような綿毛が楽しめますよ。
by 夕菅 (2013-09-18 23:21)
またしばらくご無沙汰してしまいました。
ガガイモの花をちゃんと覗き込んだことがなく、その構造や機能については全くしりませんでした。夕菅さんの記事と、ガガイモの論文やなかなかさんのページでこの花の驚くべき構造としくみについて、具体的に知ることができました。花粉塊をクリップが留めているなんて、ハチが口吻で蜜腺をたどってゆくうちにクリップが引っかかるなんて、おかしくて笑ってしまいます。
この辺の野原にもガガイモはよく見かけます。どうも、あの妖しげな花はくせ者に違いないとは思っていました。
by エフ・エム (2013-09-22 09:15)
エフ・エムさん コメントありがとうございました。
文献までお読みいただいてまたお疲れが出ないかと按じましたが、クリップを楽しんでいただけたようで嬉しくなりました。
私はクリップまでがやっとですが、なかなかさんの実験はすばらしいですね。そしてあの複雑な構造を誰が(何が)どのように作り上げたのか、まことに感無量です。
小さな花から作られる大きな果実と綿毛のついた種子、これもまたも面白いですから、お散歩のとき楽しんで下さい。
by 夕菅 (2013-09-22 12:47)