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ホタルブクロの受粉 [草花(夏)]

今まで、ホタルブクロは遠くから見て風情を楽しむ花でした。
今回は前の記事の続きとして、花の内部をのぞいてみましょう。

ホタルブクロ点wb.jpg

これは白色に紅い点があるホタルブクロです。
中心に綿棒のように長いめしべが伸びています。
そのまわりにあるくるまったリボンのようなものがおしべです。

ホタルブクロおしべwb.jpg 

地色がピンクの花。
花冠の上半分を取り除くと、花粉のついためしべの花柱に続く子房が現れました。
クリックすると小さなアリが2匹見つかります。

ホタルブクロ断面1wb.jpg

左画像;子房を拡大。既におしべは萎びています。
    ここにもアリが1匹。

右画像:子房の断面。下の方に蜜がたまっています。
    味見をすると甘くて美味しい蜜でした。アリはよく知っていますね。

ホタルブクロ断面3wb.jpg ホタルブクロ断面2wb2.jpg

いくつかの花を覗いてもおしべは皆、ベージュ色。花粉は出尽くしたあとのようです。
調べてみると、ホタルブクロは雄性先熟。つまり、おしべが先に成熟して花粉を出し、遅れてめしべが柱頭を開いて、訪問する昆虫が他の花の花粉を運んできてくれるのを待つ仕組みです。
(雄性先熟はシロホトトギスの記事にも書きました。)

では花粉はいつ出るのでしょう。つぼみの時にもう出ているのでしょうか?
先がわずかに開きかけたつぼみを採取しました。

つぼみ1wb.jpg

上部の花冠を除くと花柱を取り囲むおしべが出てきました。
葯には花粉が付き、花柱も白く花粉で覆われています。

つぼみ断面wb.jpg

若いつぼみのうちからおしべは花粉を出していたのですね。
さらに若いつぼみを探しましょう。

つぼみ2-2wb.jpg

この若いつぼみではめしべの花柱はおしべの葯に包まれていました。上の花冠を除くとすぐおしべの1本が浮き上がり、葯の内側に花粉が並んでいるのが見えました。
花柱の周りには毛が密集していて伸びるにつれ花粉をまとっていきます。
花粉がなくなるとおしべは枯れるのです。

開花したあとの花をいくら覗いても花粉のついたおしべは見えなかったわけです。

つぼみ2wb.jpg

これでめしべの柱頭の形の順序がわかりました。
1)咲いたばかりのめしべはすでに花粉で覆われています。
2)花粉が落ちて滑らかな花柱になりました。

めしべの花粉1wb.jpg めしべ2wb.jpg

3)めしべの柱頭が3裂します。
4)柱頭に花粉が付着しました。
  この花粉は他の花を訪問した昆虫が付けていったものでしょう。

めしべ3wb.jpg めしべの花粉4wb.jpg

ここにひとつ疑問が残りました。
ホタルブクロの花粉はハナバチに運ばれると言われています。
この時期、庭のニンジンボクやブットレアなどにはたくさんのハチやチョウの仲間が訪れていますが、ホタルブクロの花をしばしば覗いてもアリ以外の昆虫には出会えませんでした。
しかし、花が枯れたあとにはたくさんの果実が実りつつあります。

ホタルフクロ果実@.jpg

福原先生の植物形態学にも「花柱についた花粉が取れたころに、花柱の先端が3つに割れて柱頭が露出する。」と書かれています。
本多先生は石川の植物や「植物観察図鑑」に自家受粉をさける仕組みについて詳説されています。

私も観察してみました。確かにそのようです。
左は厚く花粉をまとった花柱、右は柱頭が開いて花粉がほとんど無くなっている花柱です。

めしべ比較wb1.jpg

しかしその後めしべを見てまわるうちに、花柱に付いた花粉がさらりとは落ちずにかなり残っている場合があるのに気付きました。
その際、3裂した柱頭がくるりと卷いていることもありました。
ホタルブクロの花は下垂していますから、花柱に残った花粉が落ちれば卷いた柱頭に付着します。
他家受粉を優先するものの、こうして自家受粉する例もあるのではないかと思えました。

花柱花粉2wb@.jpg 花柱花粉5wb.jpg 花柱花粉6wb.jpg

昨年観察した モミジアオイでは柱頭が大きく彎曲して自家受粉もすると考えられました。
これはなかなかさんのヤノネボンテンカの自家受粉に教わって観察したものでした。

ホタルブクロも同じように自家受粉もすると考えれば、その逞しい繁殖力も納得できます。
ただし今回はほんの少数例の観察ですし、梅雨の雨が続き花期も終わる頃ですから、単なる例外に過ぎないかもしれません。
お粗末な画像からの素人のたわごと、感じたままに書きました。誤りがありましたらお教えいただければ幸いです。

ヤマホタルブクロ2wb.jpg

参考にさせていただいた主なHP・文献
福原のページ(植物形態学)
https://www.fukuoka-edu.ac.jp/~fukuhara/keitai/kikyouka.html
 キキョウ科 ホタルブクロ

石川の植物
http://www48.tok2.com/home/mizubasyou/81hotarubukuro.htm
  掲載種一覧 81 ホタルブクロ
本多郁夫. 2007. 知るほどに楽しい植物観察図鑑:67. 橋本確文堂

なかなかの植物ルーム
http://www.juno.dti.ne.jp/~skknari/yanone-bontenka.htm
  ヤノネボンテンカの閉鎖花


コメント(8) 

コメント 8

なかなか

夕菅さん こんばんは
ホタルブクロの記事拝見いたしました。 とても面白い点に気が付かれましたね。
画像にもちゃんと花粉が残っていて受粉しているような花柱が示されていますね。 果実がたくさんできていることを考え合わせれば、夕菅さんが観察したとおり雌しべの3裂した柱頭がくるりと卷いて自家受粉することは十分に考えられることだと思いました。

by なかなか (2010-07-18 21:31) 

satton

ホタルブクロの詳細な観察、興味深いです。自家受精を避けるためのしくみはまさに生命の神秘ですね。
by satton (2010-07-18 21:45) 

夕菅

なかなか さん

とても嬉しいコメント、ありがとうございました。
ここ数日、こんなことを素人の私が書いていいのかどうかととても悩ん
でいました(小さな小さなどうでもいいことながら)。

でもなかなか先生からこのようなコメントをいただいて、今夜はとても
幸せです。
「ホタルブクロは自家受粉もできる」これからはそう信じます。
たまたまあのヤノネボンテンカに繋がりました。
受粉の方法は一元的ではないという、柔らかい発想の原点です。
本当にありがとうございました。


by 夕菅 (2010-07-18 22:51) 

夕菅

satton さん

ほんとうに植物はいろいろ神秘的ですね。
よい子孫を残すために自家受粉を避けて待っていても、誰も訪れて
くれなかったら、やっぱり自家受粉もしてたくさん子孫を残そうと
ちゃっかり考えているみたいです。
by 夕菅 (2010-07-18 23:05) 

わんちゃん    

夕菅さん こんばんわ~~

もうね、素人の域を超えてはると思いますよ。
ホタルブクロを下から覗いても、
なかなか写真に撮れず、なんか、模様があるような・・・
で終わってしまってるわんちゃんです。
こんなに詳しく解明できる夕菅さん、ってスゴイ人です。

庭のホタルブクロにわかに脚光を浴びてます、ウチの・・・

ヤノネボンテンカ
ウチの庭で、もうすぐ咲きそうです
ジックリ見てみなくっちゃね。
by わんちゃん     (2010-07-19 22:42) 

夕菅

わんちゃん 

とんでもない! 専門の先生方の写真はすばらしいですよ!
そんなのを見てるともう書くのやめようかなって思いながら、また
次の花に誘われてこんなことになっています。

わんちゃんとこにはヤノネボンテンカもあるんですね。
この花はこのブログの最初の記事でした!

http://yuusugenoniwa.blog.so-net.ne.jp/2008-09-23

by 夕菅 (2010-07-20 00:22) 

TOKO

少々ご無沙汰しておりました。
このような猛暑の中,お庭ではしっかりお花が咲いているのですね。
今は観葉植物専門になってしまった私の清涼剤の様にブログにお邪魔させていただいています。
ホタルブクロと言えば,幼少のころ,父方の祖母に,この中に本当に捕まえた蛍を入れたもの…と,この花とその名前を教えられたのを思い出しました。
祖母からは本当にいろいろな花の名前を教えてもらいました。
マンション暮らしだとどうしても暑い日中の家にお花が傷んでしまうので,とくにこの季節はお花を楽しむことが難しくて残念です。
またお花の癒しを求めて,お邪魔させていただきます。
by TOKO (2010-07-25 14:27) 

夕菅

TOKOさん
今夜は珍しく10時半に帰宅しました。家の中は熱帯地獄。
クーラーを入れるや、懐中電灯をもって花が萎れていないか見に行き
ました。たぶん救急散水まではいらないようでほっと一安心。

ホタルブクロの思い出、情景が浮かぶようです。
夏の生花はむつかしいですね。
最近は暑さに強いムクゲを毎朝一花づつ生けています。

TOKOさんも新たな第一歩のご様子、たださえ暑い中どうぞご無理の
ないように進んでくださいね。

by 夕菅 (2010-07-25 23:37) 

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